⑤損保会社への損害賠償請求権には時効がある?交通事故被害者が知っておきたいこと
今回は、加害者側の損保会社への損害賠償請求権について、交通事故の被害者が知っておきたいことや注意すべきことをわかりやすく解説します。
交通事故の損害賠償請求権とは
まず、損害賠償とは民法第709条・第710条によって次のように定められています。
第七百九条 不法行為による損害賠償 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十条 財産以外の損害の賠償 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。 |
出典・引用元:e-GOV法令検索『民法』より
交通事故の場合、事故によって破損した車の修理代や修理期間中の代車代、ケガの治療費や通院費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などが損害賠償に該当します。人身事故では財産的損害だけでなく、精神的損害も加害者側に請求できます。
損害賠償請求権とは加害者に対して損害賠償を請求する権利であり、交通事故の被害者や相続人が賠償権利者となります。損害賠償請求権には消滅時効があるため、法律で定められた期限までに請求しなければなりません。
損害賠償請求権の時効までの期限・起算点
加害者側の損保会社への損害賠償請求権には時効があり、時効までの期限や起算点は事故の種類によって異なります。民法改正によって権利行使期間が見直され、2020年4月1日より損害賠償請求権に関するルールが変わりました。
●不法行為に基づく損害賠償請求権
<民法改正前>
損害および加害者を知った時から3年以内であり、かつ不法行為の時から20年以内
<民法改正後>
①物損事故の損害賠償請求権
→改正前と同じ
②人身・死亡事故の損害賠償請求権
→損害および加害者を知った時から5年以内であり、かつ不法行為の時から20年以内
事故の種類 |
物損事故 |
人身事故 |
死亡事故 |
時効までの期限 |
3年 |
5年 |
5年 |
起算点 |
事故日 |
事故日(※) |
死亡日 |
(※)後遺障害がある場合は症状固定日
民法改正前は物損事故も人身事故も、損害賠償請求権を3年間行使しない場合は消滅すると定められていました。しかし、民法改正後は人身事故の損害賠償請求権の消滅時効が5年に延長されています。なお、物損事故は変わらず3年のままです。
このように、事故の種類によって時効までの期限に違いが生じたことで、同じ交通事故でも損害賠償を請求できる期限に違いが出てきます。物的損害は3年間、人的損害は5年間となるため、被害者としては注意しておく必要があります。
なお、交通事故の相手がわからない場合の消滅時効の期間は最長20年であり、その間に加害者が判明すれば物損事故なら3年、人身事故なら5年の期間が適用されます。
●注意!自賠責保険への被害者請求権の時効は「3年」
加害者側の自賠責保険会社へ被害者請求する場合、時効までの期限は3年間、傷害の場合は「治療を終えた日」が起算点となります。損保会社への損害賠償請求権の時効や起算点とは異なる点に注意しましょう。
損保会社との交渉が長引きそうなら弁護士への相談を検討する
損保会社との示談交渉が長引いた場合、損害賠償請求権の消滅時効が間近に迫ってしまうことが考えられます。この場合は納得できないまま示談成立してしまうよりも、「時効の更新」または「時効の完成猶予」の手続きをおこない期限を延ばすことを検討しましょう。
時効の更新とは時効の経過をゼロにして初めから進行させること、時効の完成猶予とは時効の進行を一時的にストップさせることです。たとえば、相手方に対し裁判所を介して請求をおこなう場合、手続きが終わるまでは時効の完成が猶予されることになっています。
こうした手続きを個人が対応するには負担が大きいため、損保会社との交渉が長引く場合はなるべく早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
まとめ
交通事故の被害者は加害者側の損保会社に対し、車の修理費やケガの治療費、慰謝料といったさまざまな損害賠償を請求できます。しかし、損害賠償請求権には時効があり、物損事故なら3年、人身事故なら5年以内に請求権を行使しなければなりません。損保会社との交渉が難航しなかなか解決に至らない場合は損害賠償請求権の消滅時効を意識する必要があり、場合によっては時効を延長する手続きをとることになるでしょう。
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2021.06.07
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