⑤高齢者の免許返納だけで交通事故は防げるのか
今回は、近年増加している高齢者の免許返納についてご紹介するとともに、免許返納だけで高齢者の交通事故を防げるのか考えていきます。
2019年に過去最多を記録した免許返納件数
運転免許証の自主返納制度とは、有効期限が残っている免許証を自主的に返納する制度で、1998年より導入されています。高齢ドライバーが加齢にともなう身体機能の衰えで運転に不安を感じている場合、運転免許証を自主返納する手続きがとれます。運転免許証を自主返納すると「運転経歴証明書」の交付が受けられ、2012年4月1日以降に交付された証明書に関しては、公的な本人確認書類として利用できます。
下の表は、申請による運転免許証の取消件数の推移を表したものです。
年別 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
申請取消件数 |
285,514 |
345,313 |
423,800 |
421,190 |
601,022 |
552,381 |
参考:警察庁『運転免許統計 令和2年版』
免許返納は年々増加傾向にあり、2019年の返納数は制度導入以降最多となりました。相次ぐ高齢ドライバーによる痛ましい交通事故が高齢者の免許返納を加速させたようで、特に2019年4月に発生した池袋暴走事故の影響が大きかったと考えられます。
2020年の免許返納数は2019年よりも減少しましたが、それでも過去の返納数を見ると依然として高い水準であることがわかります。2020年に免許返納数が減った原因は、コロナ禍による外出自粛が影響していると推測できます。
自治体の対応から見る免許返納のメリット
運転免許証を返納すると、本人確認書類として永年利用できる「運転経歴証明書」の交付を申請できます。この証明書を持っていれば、自治体や事業者によるさまざまな特典が受けられるメリットがあります。
●運転経歴証明書の提示によって受けられる特典の一例
· タクシーやバスの運賃割引
· 百貨店やスーパーの配送料金割引
· 眼鏡や補聴器の購入割引
· バスツアーの料金割引
· 飲食店の料金割引
· 商品券の贈呈
特典の内容は各自治体によって異なります。運転免許を返納しても足に困らないように、公共交通機関の割引サービスを導入する自治体が多いようです。
なお、運転経歴証明書は運転免許証の代わりに本人確認書類として利用することはできますが、証明書を携帯していても車を運転することはできません。
高齢者の免許返納で交通事故は防げるのか
高齢者による交通事故が大きく取り上げられるようになったことで、高齢ドライバーの免許返納は増加傾向にあります。高齢者が引き起こす交通事故を防ぐには、免許証の自主返納だけで十分だといえるのでしょうか。
運転免許証は車を運転するときに必ず携帯しておかなければなりません。しかし、車自体は免許証の有無にかかわらず簡単に動きます。将来的に免許証がなければ動かせない車が誕生する可能性はありますが、現時点では免許証がなくても物理的に車を動かすことは可能です。
もし高齢者が認知症を患っていた場合、過去に自主返納したことを忘れているかもしれません。そうなると、いくら免許証を返納したからといっても、物理的に車が動く限りは交通事故を完全に防ぐのは難しいでしょう。実際に、高齢者による免許返納後の無免許運転の摘発や交通事故は全国で頻発しており、外出の減少が認知症を進めているとの指摘もあります。免許返納によって交通事故の発生を抑える効果は期待できますが、免許返納だけで交通事故を防げるとはいえません。
また、公共交通機関が発達していない地方では日常的な移動に車が欠かせないところが多く、運転に何らかの不安を感じていても免許返納の選択肢がなかなかとれない高齢者もいます。このような地域では免許返納を呼びかける前に、車がなくても移動手段に困らないような対策や環境整備が必要になるでしょう。
まとめ
近年社会問題化している高齢ドライバーによる交通事故の影響から、運転免許証の自主返納数は年々増加傾向にあります。運転免許証を返納すると返納日から遡って5年間の運転経歴を証明する「運転経歴証明書」の交付が受けられ、公的な本人確認書類として利用できます。
しかし、車が物理的に動く限りは、免許返納だけで高齢者による交通事故が防げるとは言い切れません。周囲の人の目や声かけ、車がなくても移動に困らない環境整備が必要になるでしょう。
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2021.07.21
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